餅は餅屋 [本の感想]
好きなスポーツジャーナリストが2人いるが、そのうちの1人、ゴルフジャーナリストの舩越園子さんが書いた本を読んだ。
この人の書く記事、エッセイ、コラムはいつも結びが小気味よく、「うまい!」と膝を叩くような終わり方をして、気分よく読み終えることができるので好きだ。
じゃあ、彼女が書いた子宮頸がんについての本は、結構読めるのではないか? と思って買ったのだった。
読んでみると、「あれ?」っていう箇所が多い。突っ込みどころも満載で、読んでいて苛々してくるのだ。「ゴルフについて書いている筆致と全然違う」。
検査で子宮頸がんの疑いがあり、セカンドオピニオンを求めて住んでいるニューヨークから日本に戻り、そこで円錐切除術を受けてがん治療は終わるのだが、それまでに何とまあうろたえる人だろうという感じで、右往左往するのだ。それが何ともうっとおしい^^;
子宮を取ってしまったら、放射線治療をしたら、セックスのとき感じなくなるんじゃないのかとか、女じゃなくなってしまうのではないかとか、、、。「生より女」を選びたいくらいの勢いで、子宮頸がんの治療について疑問を投げかけていくのだ。
結局、円錐切除術のみで済んで、ほとんど悩む必要はなかったんじゃないの? という顚末ではある。何というか、重い手術を受けて治療をしている人には失礼、と思ってしまうような書きっぷりなのだ。
ただ、後半になると「女より生」を選ぶことを理解するし、医者の苦悩に接して医療のあり方にまで言及するようになる。この辺に来るとほっとして読み進められた。
ここに出てくる医師いわく、女性であること、男性であることを決定するのは「脳」であり、「心」だろうと。女性器や男性器が決定するのではないということ。性器で決まるということになると「性同一性障害」が説明できない、ということにある。そうそう。
おそらく本にするという前提で、テーマとして子宮→セックスというのを選んだのではないかと思う。ある意味でキャッチーだから。
でもそれをテーマとして書くにしては、「がん」というのは重い病気であり、医療というのもさまざまな問題を抱えている。そのためには、キャッチーなだけでは書き進められないと思う。
そこが失敗だったのではないか。
これは、子宮頸がんかもしれないという人が一緒に悩んで読む本であって、手術をしてしまった人が読む本ではない。それだけはいえる。
ゴルフジャーナリストとしては舩越園子さんをすばらしいと思っていたけれど、こういう問題について書こうとすると不釣合いな感じがした。
餅は餅屋。ゴルフについて書いている舩越さんが一番輝いているな。愛がある。
そしてもう1人、最近好きになったサッカージャーナリストがいる。原田公樹さん。
中日スポーツや日経新聞、JSPORTSに記事を書いている。
なぜこの人に注目するようになったかというと、今回の女子サッカーW杯でなでしこジャパンをずっと追いかけて、彼女たちについてずっと書いていたから。
『サッカー女子W杯…なでしこジャパンの「美しさ」』
そして↑この日経新聞の記事。
W杯優勝後にマスコミがなでしこジャパンを取り上げるたびにうんざりしていたのが、「彼氏はいるの?」や、「食べものは何が好き?」などのくだらない質問。
だいたい男子の選手にそんなことは聞かないでしょうと。何でサッカーについて聞かないのか、と家でプンプンしていたのだった。
夫T君にもそのことを投げかけると、「しょうがないよ。TVを作っているのは男ばっかりだから」と言う。「それにサッカーのことなんてわかっている人は少ないでしょ」と言うのだ。
「まあ、それはそうだけどさっ」…と怒りは収まらない(笑)
でだ、原田さん。サッカージャーナリストだからサッカーをよく知っている。それだからではないだろうが、「彼氏はいるの?」なんていうことは聞かない。『女性ならではの「美しさ」』とちゃんと書くのだ。
読んでみて欲しい。ちゃんとプレースタイルに言及するのがすばらしい。これが専門とするジャーナリストの仕事だろう。うんうん。
原田さんがなでしこを追っかけていることを某ツイッターで知っていたが、実際にこういう記事を書いてくるなんて、いいやつだなあと思った。好感が持てるし、信用もできる。そしてなでしこジャパンはその後、優勝したんだから^^
ちゃんとしたいい目を持っているんだよ。ジャーナリスト冥利に尽きるだろうなあ。
本当にね、餅は餅屋。
TVなんかで、何も知らない人が付け焼刃的なインタビューをしてはいけないってことだ。
ついでにこんな本を読んだ。
人知れずすばらしいものを作り続けている職人さんたちの話。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが取材し、書いた本だ。
なぜこの本を手にしたかというと、クレイジーケンバンドの剣さんを取材していたから。それを読むだけでもいいや、と思ったのだけれど、一番最初の「給食のおばさん」の話から引きこまれて読んでしまった。
いやいや、やはり極めるということはすごいことなのだ。
人知れず、こうして極めている職人さんたちがいると思ったら、ぞくぞくしてきた。これを読むとね、やっぱり日本も捨てたものじゃないと思えてくる。そんな話がいくつも出てくる。
あとがきにもこんなことを書いている。この裏方で活躍する職人さんは、「要するに、すべて地味な存在だ。華がない。話に起伏があるとも言い難い。だが、私は地味で、華がなくとも、その技術や心がまえに感心し、打たれた。彼らから話を引き出し、気迫を込めて文章にまとめた。」と言うんだ。何だか共感できてうれしい。
で、この野地さんにとって剣さんもその1人というわけだ。
それから、もう1人。
よく行く飲み屋さんで素敵な男性を見かけるときがある。高齢者なんだけど、たたずまいがカッコよく、初めて見かけたときはバカラのグラスの包みを持っていて、「ひゃ~高価なグラスを買っているわ~」なんて、思って見ていたのだ。
店主に聞けば、有名なバーテンダーさんだということがわかった。ときどきふらっときて、ちょっと飲んで、ちょっと食べて帰るのだそうだ。
この人。
ついこの前も行ったときにカウンターの一番角の、料理をする店主の目の前に座って、お酒を傾けていた。それが実にカッコよくて…^^
店主のM君も、給仕をしているソムリエンヌのNちゃんも、若干緊張しているのがわかる…。
でも、近所に住んでいるからとはいえ、ふらっと何度も来ているということは、そのお店の雰囲気も料理もお酒も気に入ってのことだろう。
緊張するのもわかるなあ~。
いや~ありがたい姿を拝ませてもらっているような気がする…。それくらいカッコイイのだ。
極めるってすごいな。
今日はそんなお話でした。
おしまい。
この人の書く記事、エッセイ、コラムはいつも結びが小気味よく、「うまい!」と膝を叩くような終わり方をして、気分よく読み終えることができるので好きだ。
じゃあ、彼女が書いた子宮頸がんについての本は、結構読めるのではないか? と思って買ったのだった。
読んでみると、「あれ?」っていう箇所が多い。突っ込みどころも満載で、読んでいて苛々してくるのだ。「ゴルフについて書いている筆致と全然違う」。
検査で子宮頸がんの疑いがあり、セカンドオピニオンを求めて住んでいるニューヨークから日本に戻り、そこで円錐切除術を受けてがん治療は終わるのだが、それまでに何とまあうろたえる人だろうという感じで、右往左往するのだ。それが何ともうっとおしい^^;
子宮を取ってしまったら、放射線治療をしたら、セックスのとき感じなくなるんじゃないのかとか、女じゃなくなってしまうのではないかとか、、、。「生より女」を選びたいくらいの勢いで、子宮頸がんの治療について疑問を投げかけていくのだ。
結局、円錐切除術のみで済んで、ほとんど悩む必要はなかったんじゃないの? という顚末ではある。何というか、重い手術を受けて治療をしている人には失礼、と思ってしまうような書きっぷりなのだ。
ただ、後半になると「女より生」を選ぶことを理解するし、医者の苦悩に接して医療のあり方にまで言及するようになる。この辺に来るとほっとして読み進められた。
ここに出てくる医師いわく、女性であること、男性であることを決定するのは「脳」であり、「心」だろうと。女性器や男性器が決定するのではないということ。性器で決まるということになると「性同一性障害」が説明できない、ということにある。そうそう。
おそらく本にするという前提で、テーマとして子宮→セックスというのを選んだのではないかと思う。ある意味でキャッチーだから。
でもそれをテーマとして書くにしては、「がん」というのは重い病気であり、医療というのもさまざまな問題を抱えている。そのためには、キャッチーなだけでは書き進められないと思う。
そこが失敗だったのではないか。
これは、子宮頸がんかもしれないという人が一緒に悩んで読む本であって、手術をしてしまった人が読む本ではない。それだけはいえる。
ゴルフジャーナリストとしては舩越園子さんをすばらしいと思っていたけれど、こういう問題について書こうとすると不釣合いな感じがした。
餅は餅屋。ゴルフについて書いている舩越さんが一番輝いているな。愛がある。
そしてもう1人、最近好きになったサッカージャーナリストがいる。原田公樹さん。
中日スポーツや日経新聞、JSPORTSに記事を書いている。
なぜこの人に注目するようになったかというと、今回の女子サッカーW杯でなでしこジャパンをずっと追いかけて、彼女たちについてずっと書いていたから。
『サッカー女子W杯…なでしこジャパンの「美しさ」』
そして↑この日経新聞の記事。
W杯優勝後にマスコミがなでしこジャパンを取り上げるたびにうんざりしていたのが、「彼氏はいるの?」や、「食べものは何が好き?」などのくだらない質問。
だいたい男子の選手にそんなことは聞かないでしょうと。何でサッカーについて聞かないのか、と家でプンプンしていたのだった。
夫T君にもそのことを投げかけると、「しょうがないよ。TVを作っているのは男ばっかりだから」と言う。「それにサッカーのことなんてわかっている人は少ないでしょ」と言うのだ。
「まあ、それはそうだけどさっ」…と怒りは収まらない(笑)
でだ、原田さん。サッカージャーナリストだからサッカーをよく知っている。それだからではないだろうが、「彼氏はいるの?」なんていうことは聞かない。『女性ならではの「美しさ」』とちゃんと書くのだ。
読んでみて欲しい。ちゃんとプレースタイルに言及するのがすばらしい。これが専門とするジャーナリストの仕事だろう。うんうん。
原田さんがなでしこを追っかけていることを某ツイッターで知っていたが、実際にこういう記事を書いてくるなんて、いいやつだなあと思った。好感が持てるし、信用もできる。そしてなでしこジャパンはその後、優勝したんだから^^
ちゃんとしたいい目を持っているんだよ。ジャーナリスト冥利に尽きるだろうなあ。
本当にね、餅は餅屋。
TVなんかで、何も知らない人が付け焼刃的なインタビューをしてはいけないってことだ。
ついでにこんな本を読んだ。
人知れずすばらしいものを作り続けている職人さんたちの話。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが取材し、書いた本だ。
なぜこの本を手にしたかというと、クレイジーケンバンドの剣さんを取材していたから。それを読むだけでもいいや、と思ったのだけれど、一番最初の「給食のおばさん」の話から引きこまれて読んでしまった。
いやいや、やはり極めるということはすごいことなのだ。
人知れず、こうして極めている職人さんたちがいると思ったら、ぞくぞくしてきた。これを読むとね、やっぱり日本も捨てたものじゃないと思えてくる。そんな話がいくつも出てくる。
あとがきにもこんなことを書いている。この裏方で活躍する職人さんは、「要するに、すべて地味な存在だ。華がない。話に起伏があるとも言い難い。だが、私は地味で、華がなくとも、その技術や心がまえに感心し、打たれた。彼らから話を引き出し、気迫を込めて文章にまとめた。」と言うんだ。何だか共感できてうれしい。
で、この野地さんにとって剣さんもその1人というわけだ。
それから、もう1人。
よく行く飲み屋さんで素敵な男性を見かけるときがある。高齢者なんだけど、たたずまいがカッコよく、初めて見かけたときはバカラのグラスの包みを持っていて、「ひゃ~高価なグラスを買っているわ~」なんて、思って見ていたのだ。
店主に聞けば、有名なバーテンダーさんだということがわかった。ときどきふらっときて、ちょっと飲んで、ちょっと食べて帰るのだそうだ。
この人。
ついこの前も行ったときにカウンターの一番角の、料理をする店主の目の前に座って、お酒を傾けていた。それが実にカッコよくて…^^
店主のM君も、給仕をしているソムリエンヌのNちゃんも、若干緊張しているのがわかる…。
でも、近所に住んでいるからとはいえ、ふらっと何度も来ているということは、そのお店の雰囲気も料理もお酒も気に入ってのことだろう。
緊張するのもわかるなあ~。
いや~ありがたい姿を拝ませてもらっているような気がする…。それくらいカッコイイのだ。
極めるってすごいな。
今日はそんなお話でした。
おしまい。
*nakasamaさま*
*めりっささま*
*あんぱんち~さま*
ありがとうございます。
by toro (2011-08-18 08:02)
休み明けバタバタしておりまして、読み逃げで失礼しましたです。
やっぱりその仕事が好きで、探究心があって一生懸命やっている人というのは、それが何であれその人自身も、やった仕事も...輝いているってことなんですね〜。
“これくらいでいいや”って仕事は姿勢がそのまま反映されてしまう。
自分も腐らずがんばろーっと。そう思いましたです。^^
by nakasama (2011-08-18 19:20)
*nakasamaさま*
いえいえ。私もバタバタしています^^;
仕事はどんなものでも腐らないで、頑張って続けるっていうのが大事なんでしょうね。
ついつい、報酬が少ないと手を抜いてしまおうかと思うことがありますが、それは
やってはいけないことですよね。
自分への戒めも含まれますよ~、はい^^;
by toro (2011-08-22 07:58)